国土交通省がバスやタクシーの車内で義務付けている運転手の氏名掲示について、プライバシー保護の観点から廃止する方針を固めた。関係省令を改正し、6月下旬にも適用されるとのことで、個人として非常に大きな朗報であると捉えている。
というのも筆者はこの仕事を始めてからの約5年間で、乗務員証を写真に撮られることを複数回経験しているからだ。事のきっかけが自身の接客接遇にあり、お客様に不快な思いをさせてしまったことについては真摯に反省しなければならない。とはいえ、ひとたび撮られてしまうと、ついその後のこと(ネット上で顔が晒され、誹謗中傷を受けるおそれ)が気になって仕事が手につかなくなったことは一度や二度ではない。改定後の車内で確認できる情報は車両ナンバーのみとなることから、筆者のような経験者のみならず、被害に遭いやすい女性乗務員が安心して乗務できるようになることは間違いないだろう。一方で利用者の中には運転手に関する情報が伏せられることで不安を感じる人も出てくることが予想される。ただ、日本交通に関して言えば社名、氏名を名乗る現在の方針を変えない限り、さして問題にならないと筆者は見ている。
SNSとスマートフォンの普及によって確立された「いつでも、どこでも、誰とでも気軽に繋がることのできる社会」において、プライバシーの問題はますます大きくなる一方だ。加えてタクシーを含む接客業では近年、問題となっているカスハラ(カスタマーハラスメント)への対応も急務となっている。今回の改定を契機に、働く人がより安心して仕事に取り組むことができる環境づくりに向けた動きが加速することを期待したい。
(H.S)